Shimizu Tatsuo Memorandum

きのうの話      
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2006.9.30
 なんと、日本ハムがパリーグ1位でシーズンを終えてしまった。よくて3位だろうと思っていたし、仕事にも追われていたからこのところしばらく観戦に行ってなかった。そしたら最終戦で決着がつくという最高の盛り上がりを迎えた。

 ところがその最終戦の入場券を、1枚余ったからというのでかみさんが友人からもらったのだ。もちろん大喜びして、いそいそと出かけて行った。
 ぎりぎりになると混むというので、4時から出かけたにもかかわらず、着いたらもう客席の8割が埋まっていたそうだ。お目当ての新庄弁当などとっくに売り切れ。NHKローカルがテレビ中継をやり、試合の決着がついた9時前には視聴率が30パーセントを超えるという、北海道はじまって以来の騒ぎになった。

 見に行けなかったから八つ当たりするわけではないが、北海道へ来て3年で1位になるなんて、すこし早すぎるんじゃないかという気がしないでもない。しかし巨人ファンしかいなかったこの北海道で、観客が4万人を越えたゲームが今シーズン8回というのはただごとでない。どうやら西の阪神、東の日ハムという2大ファン気質ができあがったのではあるまいか。
 できたらこのあと阪神に頑張ってもらい、ぜひ日本シリーズを戦ってもらおう。しかしそうなったらなったで、切符を買うのが大変だろうなあ。

 今週は初冠雪した大雪山にも日帰りで行ってきた。といっても旭岳に登ったわけではなく、裾野の紅葉を楽しんできたもの。雪は消えていたが空が真っ青で、じつに気持ちのいい1日になった。日本一早い紅葉はもう上の方が盛りを過ぎ、標高1500メートル付近で最盛期を迎えていた。来週は知床あたりで紅葉がはじまるという。気がもめることだ。

 その日はゆっくり温泉に入り、夜遅くなって帰って来た。そのとき富良野から砂川へ抜ける山道を通る。40キロもの間、ただの一軒も人家がないコースである。
 これが昼の天気をそのまま持ち越した、降るような星の下でのドライブとなった。このまま走り抜けたらもったいないというので、途中にある駐車場に入って車を止めた。近くにある瀧へ行くための駐車場で、トイレも設けてあるのだが、電気は来ていないから真っ暗である。

 車を止めて外へ下りると、思わずおーっという声が出た。まさに宝石をちりばめたような星空なのだ。数年前にも十勝岳ですばらしい星空を見たが、あのときは旅館の前だったから宿の灯が邪魔になった。今回は明かりという明かりがまったくないのである。
 ふつうだと、どんなに条件がよくても遠い都市の光が白く映えて明るさを損ねるものだが、周囲すべてが山でそういう光までさえぎっているから、まるで太古そのままの星空だ。おそらくいまの日本で望みうる最高の条件下で見た星空ではなかったかと思う。

 帰りかけたころ、よその車が1台、同じ駐車場に入ってきて向こうの方で止まった。トイレ駐車かと思ったが、ライトを消したきり動く気配がない。車にもどって出かけようとライトをつけ、はじめてわかった。向こうも車から下り、うわーという顔で空を見上げていたのである。


2006.9.23
 めっきり涼しくなった。というより一気に寒くなってきて、夜のウォーキングがTシャツ1枚では寒くなってきた。1時間も歩くと手足がかじかんでしまうのだ。それで昨夜から長袖、ロングパンツに切り替えた。

 先週あたりまで、花火をしたりバーベキューをやったりしているグループを毎晩のように見かけた。しかしこう寒くなっては、さすがにいなくなった。またジョギングやウォーキングをしている人までめっきり減ってきた。昨夜は1時間半歩いてとうとうひとりも見かけなかった。朝の最低気温が10度近くまで下がってきたから、来週あたりはもう暖房が必要になってくるかもしれない。

 今週は台風がやってきたが、勢力が衰えていたため大きな被害はなかった。今回は典型的な風台風。雨は何回か降ったもののお湿りぐらいで、豊平川の水量は2ヶ月雨が降らなかった夏よりまだ減っている。それでもダムが干上がって水道が出なくなる、という声は聞いたことがないから、山の保水力がそれだけ豊かなのだろう。つくづく暮らしやすい街だと思う。
 一方で仕事の予定のほうは狂いっぱなしだ。ほんとなら昨日から海外へ出かけているはずだったのが、流れたためにすっかりおかしくなってしまった。とにかく張り合いが抜け、仕事のペースががくっと落ちたのがいちばんいけない。おかげでつぎの仕事はいつ仕上がるか、目途すら立っていないありさまだ。
 枚数だけなら完成間近までこぎつけている。だがここへきて疑問が後から後から湧いてきて、意欲がだんだん尻すぼみになってきた。旅行に行くという目標があったときは、とにかくそれまでにやってしまおうと、脇目もふらずにやっていた。それがなまじ時間ができたため、後を振り返ったりあれこれ余計なことを考えたりして、これではだめだな、と思いはじめたのだ。いつものパターンといえばいつものパターン。みっともないからもう仕事のことを書くのはやめようと思う。

 おかげで今年の秋は東京へ帰るつもりだったのに、こっちのほうも怪しくなってきた。いま手がけている仕事が終わってくれない限り、回りのものに手がつけられないのだ。そこらじゅう手当たり次第史料や本をひろげてある。終わらないと掃除もできないのだから、引っ越しどころではないのだ。

 と言いながら、一方で朝夕のウォーキングは欠かさずやっているのだから言い訳にならない。そろそろ紅葉もはじまるし、天気はいいし、仕事の遅れる理由、東京へ帰れない理由はいくらでもある。恥ずかしい恥ずかしい。


2006.9.16
 春に一度書き上げた作品の手直しをすすめていたが、それがやっと終わって今週送稿した。これまでの自分を捨ててあたらしいものを、と目論んだため悪戦苦闘してしまった。しかし2年越しはいくらなんでも時間のかかりすぎだ。このあとゲラの段階でまだ相当手を入れなければならないと思うから、本になるのはおそらく来年になるだろう。

 とにかく宿題がひとつ終わってほっとしたことはたしか。原稿を送ったのは夕方だったが、そのあと興奮してじっとしていることができず、パンを買いにデパートまで行ったくらいだ。さらになにかお祝いをということで、翌日は親子丼を食いに出かけた。
 ちょうど「大江戸老舗めぐり」という催しをやっていた。そこへ人形町の「玉ひで」が出店していたのだ。催しは毎年やっているが、玉ひでが来たのははじめて。これは食いに行かなくっちゃ、というのでカロリーに目をつぶって出かけたのである。
 丼ものでは親子丼がいちばん好きだ。ただし札幌へ来てからはほとんど食っていない。うまい親子丼にお目にかかったことがないのである。綴じた卵が煮えたぎって出てくるのだからげんなりだ。

 北海道の悪口は言いたくないが、和食はだめなのである。蕎麦も生産量は日本一なのにつゆがだめ。おろし蕎麦を頼むと、冷たいかけ蕎麦に大根おろしを載っけたものが出てくる。先日羊蹄山の近くにあるそば屋へ入ったら、そのときはじめて、つゆと大根おろしとをべつべつに出してくれた。

 さて親子丼だが、あいにく催しの初日だった。混むかもしれないとは思ったものの、こっちだって原稿を渡した翌日だからなんとしてもその日食いたい。早く行けば何とかなるだろう、というので11時に行った。そしたらもう長蛇の列。10人くらいしか入れない店に50人からの順番待ちができていた。結局あきらめて、どこやらのカツサンドを買ってすごすごと帰ってきた。最終日の火曜日あたりにもう一回行ってみるつもりだ。

 今週の札幌は天気がよかったので、毎晩お月様をお供に歩いていた。毎日すこしずつ欠けながら、出てくる時間のだんだん遅くなるのが見届けられた。こういう経験もじつははじめてだった。ゆうべが21夜で、月の出が9時半すぎ。わたしの出歩く時間帯では、これを最後にまたしばらくお目にかかれなくなる。ちなみに東京の月の出は札幌より40分くらい遅い。


2006.9.9
 久しぶりに旭川の旭山動物園へ行ってきた。今年の入園者数も上野を抜いて日本一だというから、いまに至るも人気は衰えていない。事実入館したのが3時過ぎだったにもかかわらず園内は超満員だった。
 最初に入ったアザラシ館が満員の上、フラッシュをたかないでください、という表示があるにもかかわらずぴかぴかぴかぴか光りっぱなし。やめてくださいと女性係員がマイクでがなりっぱなしで、これだけでもうすっかりいやになってしまった。
 あとは見る気がしなくなって、最近できたチンパンジー館をのぞいて見たほかは全部パス。1時間そこそこで出てきた。多分これを最後にもう行かないだろう。そういえば東京では多摩動物園のそばに住んでいながら、30年近く入ったことがない。

 今週は天皇ご夫妻が北海道を旅行中だ。
 水曜日だったか、朝のウォーキングに行くと、ふだんは車の入れない河川敷の駐車場に見慣れないバスが何台も入っていた。見ると、窓にフェンスが張ってある。それで警察の車だとわかった。近くの公衆トイレの前には若い男が7、8人並んで順番待ちをしていた。
 警察の機動隊ならデモ鎮圧用の制服姿しか知らないのだが、トイレの前に並んでいるのはポロシャツやスポーツシャツのいま風の若者だ。あいにく歩いているコースがそれ以上近寄らなかったので、そのときは正体がわからないまま通り過ぎた。
 すると夕方になって、外出していたかみさんが美智子さんを見たと言ってにこにこしながら帰ってきた。通りがかりに聞きつけたので待っている人波に加わり、車で通るところを見届けてきたというのだ。
 人員整理の警官の多くがポロシャツなどの平服姿。腕章を見なければ本物の警官かどうかわからない格好で、しかも腕章には神奈川県警の文字が入っていたとか。すると朝見たのは札幌へ着いた直後の姿だったのかもしれない。しかしあの服装のまま勤務につくとは思わなかった。

 天皇夫妻の泊まったホテルはウォーキングコースから見えるところにある。それでその夜はさぞ警戒がきびしいだろうと思った。少なくとも河川敷に警官の姿くらいあるだろうと。ところがひとりもいないから拍子抜けした。朝見かけたバスもどこかへ移動していなくなっている。翌朝見たら向かいの河川敷へ移動していた。
 天皇は昨日日高へ移動し、高山植物で有名なアポイ山へ登られたらしい。わたしたちも登ったことがある山だ。山麓にある町営の山荘で風呂に入って帰ってきたが、昨日のお宿がその山荘だという。田舎の小さな宿泊施設である。これまで泊まられた施設の中でいちばん質素なところではないだろうか。

 最近夜のウォーキングにかみさんが同行しはじめた。だいたい1日置きだが、往復5キロを一緒に歩いている。わたしはそれだと物足りないから、帰りに家の近くまで送り届けておいて、あと3キロ余分に歩いている。

 昨夜は満月だった。それも雲ひとつない快晴。考えてみたら満月の下を一緒に歩いたのははじめてのことだ。童謡にもならないが、月の光に照らされた河川敷の道を、おじいさんとおばあさんがとぼとぼと歩いて行きました、というお話です。


2006.9.2
 掌を返したみたいにいきなり涼しくなってきた。日中もずいぶんしのぎやすくなってきたし、空気が乾燥してやっと北海道らしさがもどってきた。むしろ夜になると寒いくらいだ。今夜もいつものコースを歩いてきたが、早足で8キロ歩いてろくに汗をかかなかった。こうなると、北海道の夏はつくづく短いと思わざるを得ない。

 この夏を振り返っていちばん変わったのは、コーヒーをほとんど飲まなくなったことだろう。飲みたいと思うときがなくなってしまった。嗜好が変わったということではない。水を大量に飲みはじめたから、コーヒーを飲まなくてもよくなったのである。
 これには自分でもおどろいている。なぜならこの40年近く、コーヒーがなかったら1日も暮らせない人間だとばかり思い込んでいたからだ。朝起きたらまずコーヒー、豆はどこそこの何、挽き方はどれくらい、と些細なことにこだわっていたのが嘘みたい。そんなことはどうでもよくなってきた。飲まなくても平気。というよりなくてもかまわない飲みものになってしまった。

 代わって何を飲んでいるかというと、水である。各地の湧水を汲んできてペットボトルに移し、それを冷やして飲んでいる。飲むたびに、こんなうまい飲みものがあるだろうかと心底思う。ウォーキングで大量の汗をかき、その水分補給をしはじめて変わってきたのである。
 人間の躰には水がいちばん合っているということだろう、いまや朝起きてから寝るまでしょっちゅう水を飲んでいる。測ったわけではないが、1日2リットルは飲んでいるように思う。これから涼しくなって汗をかかなくなったらまた変わるかもしれないので、コーヒーはもういらないとまで言う気はない。だが嗜好品というものは、しょせんその程度のものかもしれないとは思う。思い込みと自己満足、それがほとんどだったのである。

 長かったマンションの改修工事もようやく終わりに近づいてきた。外壁の塗装工事が終わって窓も開けられるようになり、これまで建物全体をすっぽり覆っていた膜のようなテントも取り外された。外がくっきり見えるようになったのは数ヶ月ぶりのことだ。

 きょうはドアの塗り直しに来て、どうやらこれでわが家の工事は全部終わったらしい。しかしそうなればなったで、いちばんくそ暑い季節に窓も開けられないような工事をなぜやったのか、釈然としないものも残っている。


2006.8.26
 相変わらず暑い日がつづいている。8年ぶりの猛暑に加え雨まで少ない。一昨日千歳まで出かけたときかなりの雨に遭遇したが、札幌近辺はほとんど降っていなかった。

 これまでだったらとっくにどこかへ逃げ出していた。それが今年は文句も言わず、冷房のない部屋でせっせと働いていた。というのもじつは9月末から、中央アジアへ出かけるつもりをしていたからだ。1ヶ月近く留守にする以上、いまの仕事はきちんと片づけておかなければならない、ということでひたすら働いていたのである。
 ところがそのツアーが中止になってしまった。20日を超える長い日程だったから一抹の不安はあったのだが、思ったほど人が集まらなかったようだ。その被害をもろに受けたのが仕事。中止になったと聞いた途端すっかり勤労意欲を削がれ、以後のペースががっくり落ちてしまった。

 あわててほかに似たようなツアーはないか探してみるものの、帯に短したすきに長しで、いまのところ代わりは見つかっていない。旅行に行くという目標があったからこそ仕事がはかどったのだ、と思ってあきらめるしかないようだ。

 一方でこのくそ暑いのに窓も開けられないマンションの補修工事はまだつづいている。先週からまた裏の窓が、外壁の塗装工事で全面的に開けられなくなった。おかげで風は入らず、部屋の気温も29度にもどってしまった。
 ゴンドラの行ったり来たりも相変わらず。気のせいでなく、わが家の前ばかり動いているような気がする。ただベランダの塗装工事は完成したみたいで、ようやく各戸の仕切りが取りつけられ、人の通り抜けることはなくなった。

 1日も欠かさずつづいていたウォーキングの記録も連続59日でとうとう途切れた。一晩ニセコへ出かけていたからで、これまではよそへ出かけてもそこで歩いていた。今回もそのつもりだったから、夜の8時過ぎ、支度をして一旦は道路まで出て行ったのだ。
 ところが明かりひとつない山の中。それこそ真っ暗闇。おまけに新月とあって月はなし、雨が降った直後だったので星も出ていない。道路の白線がかろうじて判別できるくらいの光しかないのだ。
 これほどの暗さというのは、子どものころ経験して以来だった。ライトはなし、場所は熊が出たっておかしくない標高800メートルの山の中。とてもじゃないが歩くどころの話ではなかった。

 夜中に露天風呂へ行くと空が晴れて満天の星になっていた。鼻をつままれてもわからない真の闇といい、いまにも降ってきそうな星空といい、久しぶりの経験だった。山が迫って空が狭いところだったから際立っていたのだと思う。昨今ではこういう暗さもめったに経験できない。浴槽の縁に寝っ転がってしばらく空をながめていた。


2006.8.19
 やっと雨が降った。40日ぶりの雨である。各地に大雨警報が出て、事実一部地方では観測史上初めてというくらい大雨が降ったらしいが、札幌はそれほどでもなかった。豊平川の増水も20センチくらい。あまりにも乾きすぎていたということかもしれない。

 しかし昨夜はずぶ濡れになった。9時ごろから降るというから、それまでに歩いてこようと思って早めに出かけた。するとほぼ時間通りに降ってきた。それでもはじめのうちは小雨程度、これなら強くなるまでには家へ帰り着けるだろうと楽観していた。

 そしていつも通るパークゴルフ場のそばへさしかかると、作業員が水を撒いているではないか。行くとき何かしようとしていたから、まさかこれから水を撒くつもりじゃあるまいなと思っていたのだが、そのまさかを大まじめにやっている。大の男が3人、ホースで芝に水を撒いているのだ。あまりといえばあまりだから、一言ヤジってやりたくなって、そっちへ近寄って行った。
 するといきなりざざーっという大雨になった。人のお節介など焼きどころか。こっちだって家までまだ1キロ以上ある。あわてて帰りはじめたが、未だかつてこれくらい濡れたことはないというくらいしたたかに濡れた。どっちもどっち、傍目から見たらこれくらい間抜けな光景もなかったろう。

 今週は病院へ行ってきた。模範的な糖尿病患者を演じてきたおかげで、医師のおおぼえもめでたく、次回から2ヶ月ごとの通院でよいということになった。退院して間もなく2ヶ月になるが、夜だけならこの間1日も欠かさず歩いている。おかげで日焼けして真っ黒、体重も51キロ台まで落ちた。

 しかしサウナでつくづくわが肉体を見ると、たくましく引き締まったなんてものではとてもない。いかにもみすぼらしく、縮んでしまった感じ。これまで糖尿病になった友人を何人も見ているが、久しぶりに会ったら無惨なくらいげっそり痩せているからびっくりしたものだ。ひょっとすると自分もよそ目にはそう見えているのだろうか。


2006.8.11
 今年の札幌は東京よりひどい。今日久しぶりに30度を切ったが、8日連続真夏日がつづいた。1999年以来の暑さだというから、わたしたちが札幌住まいをはじめた年の猛暑再来というわけで、夜も暑くて眠れやしない。温度計を見てびっくり。29度もある。これで冷房がないのだから、寝苦しいわけだ。

 それでも今週から窓が開けられるようになって、すこしはしのぎやすくなった。だがほかのフロアではまだ塗料の吹きつけをやっているし、新たに廊下のペンキの塗り直しもはじめたから、ときとしてその臭いがもろに漂ってくる。そのたびにあわてて窓を閉めている。
 窓を開けていてもゴンドラが通る、ベランダを人が横切る、落ち着かないことおびただしい。しかし開け放した窓の真ん前を、知らない人間がぬーっと横切るのも妙な感覚だ。玄関のドアは施錠してあるのだからおかしいのである。ただしけっして気持ちのよいものではない。

 気候がこのありさまで、家がこの状態。いままでだと口実を設けてホテルか温泉へ逃げ出しているのだが、今年はどこへも行かず我慢している。仕事が追い込みにかかっていることもあるが、朝晩2回歩きはじめたおかげで、環境を変えるとそっちのノルマが果たせなくなるからだ。なんか本末転倒という気がしないでもないが、いまや1日2回のウォーキングを中心に生活が回っているのである。

 今週は歯科に行った。病院まで3キロあまり。朝のウォーキング代わりと思って、デイパックを背負って歩いて行った。信号に引っかかった分を入れても45分で着いた。替わりのシャツを持って行って、向こうで着替えた。

 それから万歩計のあたらしいのを買った。これまでのは不正確すぎて単なる目安にするぐらいしか信用できなかった。2割ぐらい誤差が出ていたのではないかと思う。それでいろいろ調べ、腕時計兼用の万歩計を買った。
 歩くとき手を振るが、振り下ろした手が地面と垂直に交わったときカウントされる方式で、精度が大幅にアップされた。歩数だけに限っていえば95パーセント以上の正確さになったような気がする。

 雨はその後もまったく降っていない。河川敷の草原は枯れるばかり。きれいな花をつけていたシロツメグサが一面赤茶けて枯れてしまったのだからちょっと異常だ。何とか緑が維持されているのは、市が管理するパークゴルフ場くらい。夜になると、1日置きぐらいにスプリンクラーで水を撒いている。


2006.8.5
 かみさんが友だちと小旅行に出かけたので、この週末は楽しい独身生活を送っている。朝6時に送り出したあと寝直したら、今度目が覚めてみると11時だった。それが朝、ということで朝食は12時になった。それもやや軽め。
 すると夕方には猛烈に腹が減ってきた。やむなく夕飯を早めにとり、18時に食った。ところが23時をすぎるともう腹が減ってきてたまらない。いつもなら夕食後は絶対に食わないのだが、このままだと仕事もできそうにない。
 それで、今日は2食しか食ってないんだからいいか、と勝手に理屈をつけてクロワッサン1個とバナナを1本つまんだ。何のことはない。うるさいのがひとりいなくなった途端、腹が減ったら食うという不規則きわまりないもとの生活スタイルにもどってしまった。

 唯一変わったのは食後歩いていることだ。これも1ヶ月あまりつづけてきて、いまでは1日2回、合わせて2時間と、ほぼパターンができあがった。朝が50分だったら夜は70分、合わせて2時間歩く。これくらいだと日常の生活にもそれほど影響しないからだ。

 札幌でありがたいのは、夜間出歩いてもヤブ蚊の類がまったくいないことだ。山へ行くとさすがにそうもいかないようだが、市内で動いている限り、蚊に刺される恐れはまずない。カナブンなどもきわめて少なく、部屋の窓を開け放していても虫が入ってくることはめったにない。網戸がいらないのだ。ただしこれは12階という高さが影響しているかもしれない。

 6月は梅雨が来たかと思えるくらい大雨つづきだったのに、7月に入った途端ばたっと降らなくなった。6月26日からウォーキングの記録をつけているのだが、今日までその間に雨が降ったのは2日だけだ。それもウォーキングを休まなかったくらいだから大した雨ではなかった。つまりここ1ヶ月ほとんど降っていないのだ。
 おかげで河川敷の芝が黄色くなって枯れはじめた。風が吹くと土埃が舞い上がる。コンクリートの上ばかり歩くと足が痛くなるので、芝のあるところはその上を歩くようにしているのだが、その上すらコンクリートみたいに堅くなってきた。そろそろ一雨欲しいころである。


2006.7.28
 札幌も遅ればせながら夏となり、このところ30度近い気温がつづいている。まだ真夏日こそ記録していないが、それも時間の問題となってきた。

 ところがそのために、わが家はいま悲惨な状況となっている。マンションの改修工事のせいで、窓を開けることができないのだ。開けられないのではない。窓が開かなくなっているのだ。
 外壁の塗装だか吹きつけだかがはじまり、窓ガラスに塗料飛散防止のためのフィルムが貼られてしまった。不透明な膜だから外はまったく見えなくない。その上窓を開けることができなくなった。玄関のドアが開くだけであとは完全な密閉状態。風は入らず、おまけに冷房なしである。
 唯一の納涼手段は扇風機。それをつけ放しにしても晩めしのときは汗がだらだらと流れてしまう。まだ室内の気温が上がりきっておらず、25、6度ですんでいるからいいものの、30度以上になったらどうなってしまうか。小生の仕事部屋は西向きで、夕方になると西日がさんさんと入ってくるのである。

 おまけにこのところインターネットがつながりにくくなって困っている。電話口から仕事部屋まで10メートルあるから無線で接続しているのだが、ろくにつながらなくなってきた。1日のうちでも使えない時間帯のほうが多くなってきたのだ。
 混信しているのか、競合しているのかよくわからないが、100戸を超える大規模マンションになるとこういう現象は避けられないとのこと。しかしこうなると、もう実用にならない状況といって差し支えないだろう。つながっているときでも、画面を読んでいる間に切れてしまうのだ。

 躰のほうは快調、その後もせっせと歩いている。万歩計の数字だからあまり正確ではないものの、平均すれば1日1万歩以上は歩いている。今週は歯医者へ行く週だったが、病院まで3・5キロだったからこれも歩いて行った。着いてから着替えるのだ。

 歩く距離もだんだん延び、今週は最長9キロまで歩いた。東京にいたころは毎晩10キロ歩いていたから、だんだんそれに近づきつつある。たださすがに歩く速度は遅くなり、時速6キロがせいぜい。50代のときは10キロをだいたい1時間16、7分で歩いていた。

 今日、日本推理作家協会から見慣れない贈り物が届いた。会員にはちがいないにしても、ものをもらういわれはない。不審に思いながら開けてみたら夏毛布が入っていた。

 古稀記念とある。まだ69歳だよ。全然うれしくなかった。


2006.7.21
 今週もろくに仕事ができなかった。

 連休にせがれが親孝行の押し売りに来て、そのお相手をさせられたのだ。本来は日本百名山のひとつ斜里岳に、かみさんを登らせてやるという名目だった。ところがこのところ雨つづきで、山登りのできる天気ではない。それで山は中止したものの、せがれのほうは休暇を取っている。やむなく目的を原生花園巡りに切り替え、この忙しいのに3日間道東へ出かけていた。

 北海道はたいていのところへ行ってしまったが、まだ未踏地が若干残っていた。そのひとつが十勝川の河口近辺。道内でももっとも辺鄙なところだ。茫漠とした広がりがあるばかりで、ほかにはなんにもない。そこを巡ってきた。
 土地の大方は湿地か、それが乾いてしまった草っ原。海岸には潟や沼が残り、周りはすべて原生花園になっている。手つかずといえば手つかずの自然。わざわざ尋ねて行く値打ちがあるかといえば、あるような、ないような、暇と興味がある人なら行って損はないでしょうと申し上げるしかないところだ。
 北海道の原生花園といえばオホーツク海に面した小清水の原生花園が有名だが、あそこは観光バスの通り道にあるから知られてしまっただけのこと。北海道の3大看板倒れの1番にランクしていい代物だろう。ちなみに2番は札幌の時計台、3番は札幌の2条市場あたりかな。

 旅先でも毎日歩いていた。習慣というのは恐ろしいもので、一旦身についてしまうと、今度はそれをしないと落ち着かなくなる。帯広で泊まったホテルの傍らに、とてっぽ通という旧十勝鉄道の線路跡を整備した遊歩道があったのでこれを夜1時間。気持ちのよい道だったから翌朝はかみさんを連れ出して30分。リスの親子らしいのが4匹もいた。

 帰ってきた翌日は退院後初の診察日。いちいち受診していたのではたまらんから、1日に内科、眼科、リハビリ科3つの予約を全部入れていた。おかげで朝の8時半から午後の1時まで、結局まる1日つぶれた。しかし歩いている効果はてきめん。ヘモグロビン何とかの数値がたちまち平常値にもどった。来週まだ歯科が残っている。

 ようやく仕事を再開すると、今度はパソコンがおかしくなった。画面が急にビリビリと流れはじめ、正常に映らなくなってしまったのだ。リセットしたらなんにも出なくなった。
 さあ大変。いろいろやってみたけど、どうにも元へもどらない。あわててマニアルを探したものの、そんなものどこにしまってあるんだか、探すのにひと苦労だ。読んでみたけどわかるもんか。2時間ばかりいじくり回し、結局お手上げ。こうなればお助けマンを呼ぶしかないということになった。

 で最後に、恥をかくのもなんだからと思い直し、マシンの後にあるコード類を差し込み直したり、締めつけ直したりしてみた。そして改めてスイッチを入れてみると、あーら不思議、ちゃんと映るではないか。以後なんの支障も起きていない。やっぱり恥をかくところだった。


2006.7.14
 マンションの改修工事がはじまったため、今週はろくに仕事ができなかった。改修工事が行われることは何となく知っていたものの、借りているマンションだから半分他人事みたいに思っていた。

 ところが工事がはじまってみたら全面的な改修工事ではないか。全部終わるまで数ヶ月かかるらしい。外壁全体がすっぽり幕で覆われてしまったため外もぼんやりとしか見えなくなった。ゴンドラが1日に何回も窓の外を上がったり下ったりするし、ベランダは横に貫通させたから前触れなしに工事関係者が前を通る。窓もおちおち開けられなくなってカーテンを閉めたきりだ。
 さらに先週土曜日からは排水管の取り替え工事がはじまった。壁を剥いでパイプをそっくり取り替えるのである。最初の日、その音を聞いただけでこりゃとても家の中にいられないや、ということになった。

 それで夫婦が交代して家を出てしまうことにし、月水は小生が朝から家を空けた。工事難民である。本屋へ行ったりジムへ行ったりしたが、それだけでは時間がつぶせない。それで2日とも午後から映画を見た。
 月曜日に見たのが「M:i:V」とかいう映画。いま当たっている映画を、という基準で選んだからまったく予備知識なし。そしたらなんとスパイ大作戦の焼き直しだった。主演はトム・クルーズ。これでもかこれでもかとクライマックス場面ばかりをちりばめたような作品で、見ている分には面白かったがお終いのほうはうんざりした。
 わたしのような古い映画フアンは、話が理路整然としてないと、どうしてここで舞台が上海に飛ぶんだ、とやたら引っかかるのである。釈然としないとどうしても評価が低くなる。とどのつまりは、この手の作品はもういいや、ということになってしまうのだ。

 それにしてもリメイク作品がやたら増えてきたのはどういうわけか。「ポセイドン」「日本沈没」ときてとうとう「椿三十郎」までつくられるらしい。ポセイドンアドベンチャーも椿三十郎も見ているオールドファンとしては、いまの俳優で同じ映画を見てみたい気にはならない。とくに時代劇は、躰の動きがちがうから歩き方ひとつにしてもいまの若い俳優には無理だと思う。とはいうものの、それがわからない若い客を狙ってであればそれでいいのかも。
 水曜日に見たのは「カーズ」。小生ごひいきのディズニー・アニメで、こっちははるかに面白かった。トイ・ストーリー、モンスターズインク、シュレックなどはDVDを借りて再見したくらいで、この手の映画は大好きである。ありきたりの話なのだが、できからいえば今回のカーズがいちばんよくできているかもしれない。登場人物が車だけで、しかもこれほど表情豊かに描き分けられたことに意表を突かれた思いがして、それが余計楽しめた。

 札幌も数日前から一転して暑くなった。夜のウオーキングが寒くて鳥肌の立っていたことなど嘘みたい。北海道らしからぬ蒸し暑い夏になりつつある。

 今週は体重が52キロ台に突入した。40代のときの体重にもどったことになる。


2006.7.7
 糖尿病患者として模範的な日々を過ごしている。しかし10日ほどたってみると、だいぶ不満がたまってきた。

 いちばん納得できないのは食事だ。だいたい糖尿食になって、前よりよけいめしを食いはじめたというのはいったいどんなものだろう。これまで1日2回だったのが3回になったのだから、当然量もふえるわけで、なんか釈然としないまま、食いたくもない昼飯を食っている。
 今日などはかみさんが出かけて留守だったせいもあって、残りパンをかじって簡単にすませた。おかず代わりに無塩トマトジュース。栄養的には失格だろうが、それで夕方まで腹が持つのだから、こういうことまでいちいち文句は言われたくない気分になる。

 毎日2回のウオーキングは快調につづけている。スタミナもだいぶついて、かつて東京で毎晩10キロ歩いていたころのペースを取りもどしてきた。しかし7月とはいえ、札幌の夜の寒いこと。一昨日などは小雨が降って風が強く、寒くて寒くて、ふるえあがった。
 懸命に手を振り、全速で歩き、エネルギーを総動員しているのに汗ばみもしないのである。それどころか冷たいので腕がだんだんしびれてきた。とうとう時間を切り上げて逃げもどってきた。

 いま歩いているところは河川敷のサイクリングロードである。コンクリートなので足には固すぎる。それで今週はウオーキングシューズを買った。足に合わせて買ったつもりだが、いざ歩きはじめてみると、左の足がややきゅうくつである。心持ち小さいのだ。しかもかかとの上のアキレス腱のところがこすれる。2日目にはとうとう靴擦れを起こしてしまい、靴下が血でにじんでしまった。以来そこに絆創膏を貼りながら歩いている。

 かみさんに新しい靴の履き心地を尋ねられたから、失敗だったと答えた。左靴が小さくて、足に合わないと。そうしたら靴が合わないはずはない、あなたの足がいびつなのだと言われた。左の足が大きいのだと。
 言われてみると、靴は大量につくっている工業製品だから、左右の大きさがちがうものをつくるわけはない。するとやはり、わたしの足が左右不揃いだったんだと、不本意ながら認めざるを得なかった。しかし自分の足が左右ちがうなど、これまで思ってみたこともなかった。
 まあそのうち慣れて、靴擦れも起こさなくなると思うが、しかし足を靴のほうに慣らすというのもどういうものか。これって、むかしの日本の軍隊と同じではないか。旧日本軍では、支給された靴が足に合わないなどと文句を言おうものならぶん殴られたのだそうだ。足のほうを靴(編上靴・ヘンジョーカと言った)に合わせろというわけだ。

 午前45分、夜1時間のウオーキングのおかげで、運動が足りてジムへ行く必要がなくなってしまった。今週3週間ぶりに行ってサウナへ入ったところ、足の腿が痩せて細くなっていたのにびっくりした。筋肉が引き締まったという痩せ方ではない。しなびて、縮んでしまった感じだ。体重は1キロ減。来週あたり52キロ台に入るかもしれない。


2006.7.1

 楽しい入院生活が終わってふだんの生活にもどった。とはいえ生活が一変したというか、一変させられてしまったことはたしか。所属牧場の焼きごてを尻に押され、とりあえず野に放してもらった羊みたいな心境である。
 1回入院したら3年くらい病院へ行かなくてすむだろう、と思ったから入院したのだ。それが大外れ。帰ってきたときはいろんな病気を背負わされていた。来月から内科、歯科、眼科に通わなければならなくなったのだからとんだ藪蛇である。

 とにかく規則正しい生活をして、1日3食きちんと食え、と言われたのに閉口している。1日2食で何の支障も感じていなかったのに、それを3回均等に分けて食うなど、ものすごく面倒くさいことなのだ。
 なおかつ食ったら血糖値が上がる。それを下げるためには歩いて減らさなければならない。ということで、いまでは1日に2回、朝食と夕食後に40分から1時間歩くようにしている。
 歩くのは嫌いじゃないし、気持ちのいい汗をかくから、これはこれで快適だ。ところが帰ってきてシャワーを浴び、さっぱりすると、躰のほうは今日も1日しっかり働いたと錯覚して、あとは何にもする気がなくなってしまうのだ。おかげで仕事のペースはがた落ち。困ったことになっている。

 とりあえず今週は退院記念ということで、郊外に出かけて1000メートルクラスの山へ登ってきた。といって1000メートル登ったわけではない。快適な舗装道路が標高930メートルまで運んでくれるのだ。
 そこから200メートルくらい登ったろうか。あと100メートルも登ると頂上だったが、そんなものには見向きもしなかった。そしたら「え、ここまで来て登らないんですか。あとすこしですよ」とほかの登山者から意外そうな顔をされた。大きなお世話だ。

 今回はかみさんの希望で花を見に行ったのである。じつは6月のはじめにも出かけた。そしたら道路が雪でまだ閉鎖されていて、登山口まで行くことができなかった。今回はそのリベンジだったのである。
 しかし入院していたため時機を失してしまい、最大のお目当てだったシラネアオイという花はほとんど終わっていた。遅れ咲きの数輪は見ることができたが、大群落のほとんどは青々した葉っぱになっていた。
 ほかの花もいくつか咲いていたが、この方面には興味がないから書き記す気にもなれない。帰りに温泉へ寄って一風呂浴びたのが最大の収穫だった。

 しかし久しぶりに出かけたせいか、250キロ走っただけなのに帰ってきたらひどく疲れた。そのくせ夜になるとまた1時間歩いた。これでは仕事をする間などあるはずがない。昨夜はとうとうまるまる寝てしまった。


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