Shimizu Tatsuo Memorandum
Essay
カフェ・ド・シネマ
「ホテル・ハイビスカス」

『小説すばる』 (集英社刊) 2003年10月号より

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 「ターミネーター3」を見るか見送るか、この間から迷っていた。気が重いのである。2までは見ている。「ロード・オブ・ザ・リング」も「マトリックス」も見た。その結果、いまではこの手の映画にうんざりしてしまった。CGとかVFXとか特殊効果技術が思いのまま駆使できるようになって、見せ場だらけの絢爛豪華な映画がこれでもかこれでもかと出てくる。一方で中身のほうは、はちゃめちゃになってしまうばかりだ。見ているときはたしかに面白いのだが、見終わったあとには空しさしか残らない。だまされたような、してやられたような、しらけた気分といえばいいか。目新しいド派手な映画をつくりさえすれば大金が儲かる、という作り手側の意図がもろに透けて見えるのである。
 先日も「パイレーツ・オブ・カリビアン」を見た。これまた同じ。面白いこと無類だが、大がかりな見世物映画であることに変わりはなかった。ただしそれゆえというべきか、映画のほうは大ヒット、2部3部をつくる話まで出ているらしい。いい加減にしろと言いたくなる。それともいまどきの観客は、柳の下にドジョウが何十匹も何百匹もいるくらい甘いのだろうか。もうたくさんである。「ターミネーター3」も見ないことにした。それだったら過去の名作を繰り返し見ているほうがまだいい。残念ながら映画が映画らしかった時代は終わってしまった。昨今の映画は、変質することで生き延びている亜種の見世物でしかない。
 それで、いちばん最近見た映画はというと「ホテル・ハイビスカス」。前記の作品と比べたらなんという落差。ドへたくそ、としかいいようのない映画だ。まるで学芸会のレベル。はじまってしばらくは、えー、こんなのに一時間半もつき合わされるのか、と顔が引きつっていた。しかし見ているうちに感じなくなった。というより許せる気になった。美恵子という小学三年生の主人公のおかげである。
 沖縄のある街でインターナソナル(劇中の替え歌に出てくることば)なホテルを営んでいる家族の物語だ。美恵子は末っ子、エネルギッシュでパワフル、画面からはみ出さんばかりに動き回る。地だか演技だかわからない快演(怪演?)につられて、見ているこっちまで元気になってくる。暗さや湿っぽさなど微塵もない沖縄の風土にふさわしい映画、といえばほめすぎか。しかしそれにしてもこのへたくそ加減、もうちょっとなんとかならなかったものか。
 それにこの映画、おとなだと子ども時代への思い入れがあるから好意的に見てくれるだろうが、そういう土壌のない若い世代には通用しないかもしれない。それが証拠に午後九時からの最終上映だったとはいえ、観客はたった四人しかいなかった。
 おとなが映画館にもっと足を運ばない限り、映画はますますだめになるだろう。


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